◇◇◇中間テストが終わって散々な結果でも、俺は気を張っていたらしい。母さんから次回のテストで点数が上がるまで小遣いカット宣言されて、それはもうガッカリした日の翌日――。「……え……今、何時……? はぁぁぁぁ?!」ささやかながらのテスト勉強に加えて、連日お隣さんのファンタジーコスプレ寸劇鑑賞をしていたせいで寝不足続き。疲労が積み重なっていたのは自覚してたけど……昼の十時かよ! 大遅刻確定じゃねーかっ!慌ててベッドから飛び起きて制服に着替えてリビングへ向かうと、テーブルの上に弁当とバナナ、そしてメモが置かれていた。『しっかり行って、怒られて来なさい 母より』うう……高校に入ってから、母さんに宣言されたことがある。 義務教育終わったんだし、自分のケツは自分で拭けるようになってね、という愛のムチ。だから高校生になった以降は、朝に起こしてくれなくなった。ガミガミ怒るタイプじゃないけれど、結構シビアな愛のムチは効きまくる。俺は急いでバナナを食べると、弁当をカバンに入れて家を飛び出した。どうにか三限目の終わりぐらいには滑り込めそうか? でも授業中に駆け込んで注目されたくないから、休み時間になるまで待ってたほうがいいか?考えながら走り続ければ、授業中で静まり切った学校へ到着する。 靴を履き替え、乱れた息を整えている最中――。「――くな……待て! ――……逃げるのだけは――」玄関からすぐにある階段あたりから、人の声と、強く踏み込んだり走ったりする足音が聞こえてくる。声は、たぶん圭次郎。 授業中なのに何やってんだ? まさか教室を抜け出して寸劇の練習?足を忍ばせて曲がり角まで移動し、俺は少しだけ顔を覗かせて様子を探る。てっきり圭次郎だけだと思っていたらそうじゃなくて、思わず俺の目が点になった。階段の下に立ち、圭次郎は険しい顔で見上げていた。 その視線を追っていくと――階段の踊り場に立つ、全身黒タイツの男。顔まで黒いマスクで覆い尽くしてやがる。
「お前! ど、どうしてここに!?」目を見開いて心底驚く圭次郎へ、俺は笑って誤魔化してみる。「あ、いや、ちょっと寝過ごして遅刻したら、戦闘ごっこしてたから、つい見入って―」「はぁ? 戦闘ごっこ、だと……チッ、見えないっていうのは厄介だな」苛立たしげに舌打ちをしたと思ったら、圭次郎は俺の手を掴んで走り出した。「な、なんだよ、急に!」「いいから来い! 全力で走れ!」圭次郎の勢いに呑まれて、俺は言われるままに走る。黒尽くめの男が追おうとした瞬間、圭次郎はソイツに手の平を向けて口早に呟く。「火と水の精霊よ、互いに交わりて我に身を捧げよ……もっとだ……よし、続けろ」呪文っぽいものを圭次郎が言い出した途端、男の足が止まり、呻きながらその場でバタバタと腕を振り出す。まるで煙にやられて悶絶しているような……迫真の演技だ。あまりの名演っぷりに、見えないはずの煙が見えてしまいそうだ。思わず俺は感嘆の息をついた。「スゲー演技力……演劇の養成所とか通ってそう」「呑気なことを言うな! いくらこちら側の住人でも、直撃を食らえば無事では済まないからな!」未だに緊張感が途絶えていない圭次郎が、俺の呟きを聞いて睨みつけてくる。いつも誰に対しても興味なしで冷たい顔しているヤツとは思えない顔だな。こんなに必死の形相を俺に向けてくれるなんて新鮮だ。圭次郎には悪いけれどワクワクしてしまう。でも俺、劇とか苦手なんだよなあ。国語の朗読とか棒読みしかできないし……。悪い、圭次郎。俺はお前の世界には入れないから。だから俺を巻き込もうとしないでくれ。俺は走るのをやめて、圭次郎を引き止めた。「お前の邪魔して悪かった。俺、あっちの西階段使って教室行くから……今日のこと、誰にも言わ
「確かにくだらないことしてたけど、邪魔はしたくないんだ。本当に。とにかく、俺はお前のハマりっぷりを鑑賞していただけだし!」「ほう……「見てたのは謝るから、俺を巻き込まないでくれ。俺はそんな風に役作って成り切れるような人間じゃないから! 演技力ゼロの下手くそを取り込んで、お前たちの世界観をブチ壊さないでくれ!」「……風の精霊、コイツの本音をぶちまけてくれ」「このまま誰かに見られて、俺まで変人扱いされたくない――っ! ……ハッ、口が勝手に……?!」うっかり言うまいとしていた本音が口から出てしまい、俺の全身から血の気が引く。ゴメン圭次郎。俺、お前のガチ寸劇は好きだけど、変人認定は嫌だ。 下手したら友だちなくしたり、問題児扱いされて大学受験にも影響出そうだし。怒りでしかめっ面になっていた圭次郎の顔が、急に不穏な笑みを浮かべた。 目が据わっていて、今にも何か仕掛けてきそうなヤバさを感じずにはいられなかった。「坂宮太智……お前の本音、しかと聞いたぞ。ここまで俺を不愉快にさせる存在がいるとはな……許せん」うわぁぁ、本気で怒ってやがる……そうだよな、誰だって変人扱いされたら怒るもんな。でも朝から晩まで徹底して王子様キャラになり切って、授業中まで戦闘ごっこしてたらそう思っちゃうだろ! 俺は悪くない。うっかり目撃してるのがバレただけの被害者だ。もう気まずくなるの覚悟で、突き飛ばして圭次郎から逃げるしかない――俺が腹を括りかけたその時。「すべての精霊に告ぐ……今この瞬間の証人となり、婚華の祝福を我らが手に宿したまえ」いきなり圭次郎が左手を上げて呟くと、その手に一瞬閃光が走る。 そして掴んでいる俺の手を強引に持ち上げ、薬指に何かを捻じ込んできた。その手は左――指の付け根に金色の指輪が輝く。 合わせたように、圭次郎の左手薬指にも同じ指輪がはまっていた。「さあ、これでお前も俺と同じ側の人間になった」「ど、どういう意味?」「後ろを見れば分かる」言われるままに俺は振り返る。今まで何もなかったハズなのに、辺り一面に広がる白煙。フワフワと浮かぶ、色とりどりに淡い輝きを放つ野球ボールほどの光球。圭次郎から伸びていている、火で編まれた鎖。 それは煙の中でぎこちなく動こうとしている、極彩色な洋風の甲冑を着た男を縛り付けていた。まさかこれ、圭次郎が今まで見
……花嫁……俺が……? ま、待て待て待て! 俺の同意なしで結婚しちゃったのかよ!?あまりに現実離れした状況に、固まっていた俺の頭がゆっくりと動き出す。口元やら頬やらを引きつらせながら、俺は圭次郎に顔を戻す。 言いたいことが山ほどあり過ぎて、どれからぶつけるかを選べず、唇が戦慄いて言葉がすぐに出てこなかった。「どうした? 嬉しさのあまり言葉を失ったか」「ち、違……っ! 結婚ってお前……っ、俺に、これを見せたいがために結婚したのかよ?!」「ああ、そうだ。変人として見られるなど、堪え難き不名誉。だが変人の汚名を晴らすために、大人しく振る舞う訳にもいかんからな」我が選択に一片の悔い無し、と言いたげに圭次郎が胸を張る。 コイツ、自分の間違いを絶対に認めないタイプだ。面倒くさい上に、吹っ切れると容赦なし。色々ヤバいヤツに関わってしまったと、激しい後悔が俺を頭をよぎる。だけど、もう引き返せなかった。「坂宮太智、お前もこれから俺とともに好奇の視線に晒されて、変人の烙印を押されるがいい」「そんなことで結婚するなよぉぉっ!」「ちなみに離縁は不可だ。どちらかが死ぬまで解消されることはない」「お前、実はアホだろ! 本物の王子様のクセに、取り返しのつかないことするなよぉ……」怒りを通り越し、俺はあり得ない現実に打ちひしがれる。ホント……どうすんだよ。 俺ら男同士なんだぞ? しかもそんなに仲良くない。家も席も隣だから、他のヤツらに比べたら良いほうかもしれないけれど――お互いのことさっぱり知らないんだぞ? マジで住む世界が違うんだぞ? 巻き込み目的で迂闊に結婚なんかするなよ!涙目になってきた俺に構わず、圭次郎は手首から伸びる火の鎖を掴み、捕らえた男を引っ張る。未だ甲冑男は鎖から逃れることを諦めていないようで、必死に身動いでいた。「詳しい話は後だ。まずはコイツをどうにかすることが先決だ」「ぅぅ……ソイツ、なんなんだよ……?」「今回俺たちが
廊下の突き当りを左に曲がり、体育館へ続く廊下の中ほどに保健室はあった。ガラッ、と勢いよくドアを開けると、椅子に座って書類を書いていた宗三郎先生が、驚いて肩を大きく跳ねさせた。「ど、どうしたの? えっと、お隣の太智君だよね? そんなに慌てて、ケガ人でも出ちゃった――」「一緒に来て下さい! 早くしないと圭次郎が甲冑男を燃やしかねないので!」唐突な登場に、突拍子もない話。事情を知らない宗三郎先生は、眼鏡の下でしきりにまぶたを瞬かせる。少しでも状況を汲み取ってもらいたくて、俺は左手の薬指に嵌められた指輪を見せながら告げた。「俺、圭次郎と結婚させられて、色々見えるようになっちゃったんです。早く来て下さい、ソーアさん!」「……えええええええっ! あ、わ、分か、りました、行きましょう!」宗三郎先生――ソーアさんはペンを放り投げ、慌てて立ち上がってこちらへ駆けてくる。着ている白衣の裾がひらめいたと思ったら――すぅ、と衣服が神官っぽいものへ変わる。途端に圭次郎の周囲に浮かんでいたような光球が、ソーアさんの周りにも浮かび出す。各々に廊下へ駆け出した際、すぐにソーアさんは俺の隣に並んだ。「太智君、殿下は今どちらに?」「正面玄関の近くで、ハデな甲冑きた男と戦ってます。火の鎖で縛り上げて、今にもジュッと全焼させそうな勢いです!」「殿下ならやりかねませんね……でも殿下がすでにそこまで追い詰めていらっしゃるなら、私は後始末のみで済みそうですね」ため息をつきながらのソーアさんの呟きに、俺は思わずギョッとなる。「後始末って、まさか、こんがり仕上がった焼死体を片付ける……」「ああっ、安心して下さい! 世界が違うもので攻撃しても効きは弱いのです。パッと見は派手かもしれませんが、精霊の炎で燃やされても死ぬことはありません。体力が激しく消耗して二、三日寝込むほどで済むかと……」「死なないなら良かったぁ……でも、何日も寝込むほどのダメージって……死ぬよりマシだけど」俺が不運な操られ男に同情していると、ソーアさ
◇ ◇ ◇「はぁぁ……ったく、なんだったんだよ今日のアレは……」夜、俺は風呂から上がると、ぼふんっと自室のベッドにうつ伏せに倒れ込んでぼやく。そして一旦枕にため息をぶつけてから、左薬指で忌々しく輝くソレを見つめた。どれだけ眺めても消えない婚華の指輪。圭次郎いわく、アイツらの世界の物だからみんなには見えないらしい。 確かに悠やクラスメート、先生や母ちゃんからは一切指摘されなかった。その点だけは救いだ。意識すると指の付け根に薄く締め付ける感触がある。 慣れなくて落ち着かない。むず痒くて、やけに左手が重く感じてしまうそれが、俺とアイツが結婚してしまったあり得ない現実を突き付けてくる。こんなの無効だろ! と必死で授業中に指輪を外そうと奮闘した。 でもどれだけ動かそうとしても指先は滑るだけだし、まるで指に貼り付いたように微動だにしない。そんな俺の様子を、圭次郎は隣でほくそ笑みながら観察していた。「これが俺への仕返しかよ……性格悪ぃ……」あのキレイで性悪な笑みを浮かべた圭次郎の顔を思い出した途端、沸々と怒りが湧いて俺は顔を引きつらせる。延々と不機嫌全開なムスっと顔だったのに、授業中ずっと笑ってやがった。 そんなに人の不幸が楽しいか? まるで俺の困った姿が、世界で唯一の娯楽みたいな楽しみ方しやがって。性格悪すぎだ。しかも巻き込むだけ巻き込んだクセに、後で説明するって自分で言っておきながら、未だ説明ゼロ。休み時間も放課後もどこかに行っちまって話ができないって……。 うう……状況が謎過ぎるし、圭次郎の性悪笑いが頭にこびりついて、ずーっと胸がモヤモヤする。視線を指輪から窓に移してみれば、百谷家の庭が今日は光っていない。いつもならこの時間に光っているのに……もしかして誰も帰っていないのか? 俺を巻き込んじまった挙句に結婚なんかしちまったから、大騒ぎになってたりして――。「本物の王子様だもんなあ。スゲーややこしいことになってそう……面倒クセー」
「改めていうが、俺たちはこことは違う世界から来た。我がウォルディア王国の秘宝を盗み、この世界へ逃げてきた裏切者を見つけにな」「裏切り者?」俺が尋ねると、ケイロはまつ毛を伏せて物憂げに息をついた。「王宮の近衛隊長マイラット――優秀で忠実な男だと思っていたんだがな、半年ほど前に宝物庫の最深部で厳重に保管していた百彩の輝石を盗み出し、姿を消した」「……ケイロのワガママに嫌気が差したからだったりして」思わず俺は小声で本音を零す。 細目でケイロがジロッと睨んでくる。「何か言ったか?」「べ、別に……」「まったく……話を続けるぞ。マイラットの行方は掴めなかった。ウォルディア国内だけではなく、俺の世界をくまなく探した。だが見つからず……世界の外まで探っていたら、お前が通う高校に紛れ込んでいることがやっと分かって、俺たちはここまで来たんだ」つまり異世界から俺たちの世界を調べて、俺の高校にいるところまで絞り込んだってことか。思った以上にスケールが大きいな……。 ケイロたちの世界や国がどんな所なのかさっぱり見えてこないけれど。違う世界を行き来できて、詳細に調べることができるなんて凄いし、優秀なんだということは分かる。だからこそ俺は首を傾げてしまう。「そこまで分かったんなら、すぐに見つかりそうな気がするんだけど。半年前ぐらいに転校なり転職なりしてきた人間がいないか調べたら、一発で分からないか?」「厄介なことに、奴はこの世界の人間と同化し、何食わぬ顔で生活している」「ど、同化? 成りすましてんのかよ」「ああ。違う世界のものには魔法の影響力が激減してしまうせいで、異なる世界から索敵の魔法を使ってもあまり効かない。だからわざわざここまで足を運び、直接捜しに来たという訳だ」「つまりソイツを見つけ出してお宝を取り返せば、もうここには用なしってことで帰っちゃうのか?」じゃあ俺とケイロの結婚は、そこまでってことなんだな。 期間限定ならまあ我慢できるかー、と思っていたのに、「そういうこと
「やめろよ……っ、俺、男とヤりたくないからな! お前だって俺を相手にするの嫌だろ? ってか、俺が問答無用でされる側って――」「俺は別に構わないが?」爆弾発言を連発するなぁぁっ! 心臓に悪い。冗談じゃないって分かるから、威力が強すぎる。俺の心、すでに焦土化してるんだけど……。理解ができず頭が混乱するばかりの俺に、ケイロは爆弾発言の投下をまったくやめない。「俺は今まで他人に興味を覚えなかったが、勘違いとはいえお前には幾分か興味は湧いた。何も感情が湧かない人間を相手にするより、少しは感情を覚える相手のほうがマシだ。それが苛立ちであろうがな」イライラする相手のほうがマシって、理解できねぇ。まさかリンチ的な感覚で俺と初夜を迎えようとしてるのか?コイツ、頭おかしい。世界が違う住人っていうの抜きにしても、思考回路があきらかに普通と違うぞ?どうにか逃れようと手足をジタバタしてみるが、ケイロにのしかかられて抜け出せない。細身の割に力が意外と強い。俺、一応野球部でそこそこ鍛えてるほうなんだけど。コイツに力負けするなんて、なんか納得いかねぇ。抵抗を諦めない俺の顔を覗き込みながら、ケイロが抑揚のない声でさらりと伝えてくる。「ひとつ言っておくが、俺を拒むのはお前のためにならないからな?」「ど、どういうことだよ?」「王族である以上、互いに好まぬ相手と婚姻を結ぶこともある。だからこそ相手が裏切ることがないよう、この婚姻には制約がつく」制約……嫌な予感しかしないんだけど。俺が背筋をゾッとさせていると、ケイロの手が俺の下腹を撫でた。「定期的にお前の体内に俺の精を注がないと、指輪が婚姻継続の意志なしと判断してお前の命を奪う。死にたくなければ抵抗を諦めろ」「……え? せ、せい……?」「俺の精液をお前の中に出す」オ、オイオイオイ……死ぬか中
俺の態度が明らかに違うと分かって、ケイロが本心を探るように目を見つめてくる。「今日はやけに積極的だな……昼間から寝ていたのは、このためだったのか」「……あっ……ケイロと、思いっきりヤりたかったから、寝て体力をためまくったんだ……いつも抱き潰されるから、返り討ちにしてやりたいと思って」言いながら俺は体を起こしてケイロを見下ろし、スウェットの上を脱がしていく。てっきりプライドが高いから少しは嫌がるかと思ったが、むしろノリノリな俺を歓迎しているのか顔が嬉しそうだ。……脱がされるのも恥ずかしいけど、脱がすのも恥ずかしいもんだな。見るな、喜ぶな、次は何してくれるんだって期待の眼差しを向けてくるなぁぁ……っ。俺のほうが主導権を握っているハズなのに、手綱をケイロに握られたままのような気がする。正直悔しいけれど、今はケイロがノってきてくれることが大事だ。見返すのはまた今度だ。羞恥と、ケイロに触れるだけで感じる体のせいで、俺の中が火照ってたまらない。一方的に俺がケイロの肌に触れ、吸い付き、キスを刻んでいく。ケイロに何かすればするほど、俺の胸がせわしなく脈打って、激しく乱されたくてたまらない体に仕立ててくる。ケイロは何もしない。初っ端からエロ全開でイカれている俺の痴態を、うっとりと見上げて楽しんでいる。嫌悪の欠片も見当たらない。その視線が嬉しくて、俺は焦って落ち着かない手で自分とケイロの下をすべて脱がし、俺の中へ入りたがっている昂りに跨った。腰を落とし、ケイロの滾ったものへ擦り付けてみれば――にちゃっ、と粘った音と感触が俺の下半身に響いた。「ここへ来る前に自分で準備したのか……」「だって、ケイロと、いっぱいヤりたかったから……っ……俺も、魔法使えるようになっちゃったし、いつもお前がしてくれるように、やってみた
◇◇◇翌日、俺はとにかく寝た。遅刻ギリギリまでがっつり寝て、授業中もできる限り寝た。船を漕ぐ程度のうたた寝じゃない。しっかり机に突っ伏して寝た。科目によっては担当の先生が起こしに来たけれど、「……あ、すみません……ぐぅ……」返事をして速攻で寝た。きっと先生も呆れ果てていたと思う。三年生の一学期にこれはヤバいだろう。成績も内申点も激下がり間違いなしだ。後のことを考えると肝がブルリと冷える。でも今日だけは特別だ。通知表を見て母さんに怒られるのも、夏休みの補習も想定内。後の面倒を受け入れる覚悟はできていた。昼食後もすぐに寝ようとしたら、「大智……大丈夫? 体調が悪いなら保健室に行ったほうがいいよ?」心配そうに悠が声をかけてくれる。そしてケイロも、「そんな所で寝ても余計に疲れるだけだ。寝たいなら保健室へ行け。だらだらとやるより、堂々と休め」なぜか胸を張って全力でサボれと言ってきた。あまりにも堂々としたサボり押しが、いっそ清々しい。せっかくだからと立ち上がった俺の両腕を、ケイロと悠がガシッと捕まえる。そのまま引きずられるように保健室へ連行され、俺はベッドに寝かされるハメになった。……ケイロにがっつり触られて、体が疼いて声を堪えるのが大変だった……悠の前で情けない姿は意地でも見せられねぇ。しばらく悶々としてたけれど、意地で抑え込んで、遠慮なく午後の授業をサボって寝た。チャイムがなるまでしっかりと寝だめした。体力を使う部活も休んで、さっさと家に帰って夕寝もバッチリ。さすがに夕食を終えた後は眠くはならなかったけれど、それでも横になって体を休めた。◇◇◇そして――百谷家の庭がパァ……ッと光り、再び暗くなった夜十時過ぎ頃。俺は気配を殺しながらゆっくり
◇◇◇午後の授業が終わって、野球部の部室に向かった時だった。「……ん?」自分のロッカーを開けたら、きちんと折り畳まれた紙が置いてあって、一度首を傾げる。丁寧で達筆な字で書かれた『坂宮君へ』という宛名。差出人の名前は書かれていない手紙。だけど誰が出したかすぐに察しがついて、思わず息を呑んだ。「どーした百谷?」近くでユニフォームに着替えていた同学年の部員に話しかけられて、俺は咄嗟に首を横に振る。「な、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」「なんでもなくないじゃねーか。早く行って来いよ。トイレは何を差し置いても最優先だろ!」笑いながら部室を出て行こうとする俺を、ソイツは快く送り出してくれる。ありがとうよ、トイレの重要性を分かってくれて。俺は親指をグッと立ててソイツの心意気に感謝すると、手紙を持って体育館のトイレに駆け込んだ。個室に入って一旦深呼吸して息を整えると、俺は手紙を開いていく。そこにも送り主の性格を表すような、きれいに整った字で書かれたメッセージがあった。『直接会って話がしたい。君に合わせるから、場所と時間を指定してくれ。くれぐれも殿下には内密に』今日の昼間に伝言したら、もうマイラットから返事がきた。早いな……精霊、ちゃんと仕事してくれたな。精霊ってマジで有能だなあ、と思いながら俺は腕を組んで考え込む。ケイロたちにバレないよう密会……それができれば苦労しないんだけど。しかも会ったことないけど、俺、この人の敵側の人間なんだよな。間に悠がいるせいか、あんまり怖い感じがしない。ノコノコと勝手にひとりで行ったら、人質になっちゃう展開かコレ?でも、悠の話を聞いてると何か事情がありそうだし、悪いヤツじゃなさそうな感じもするんだよな。悠が惚れちゃった旦那さんみたいだし。うーん……としばらく唸ってから、俺はそっとささやいた。
「えっ、俺、なんか変なこと言ったのか?」困惑したまま三人で顔を見交わしてから、アシュナムさんが大きく息を呑むのが見えた。「精霊と意思の疎通が図れるとは……我々の世界ではあり得ない」なんだって? 話しかけるだけで充分だぞ? めちゃくちゃ簡単だぞ?しかも反応だって単調じゃない。いろんなバリエーションがあって、むしろ感情豊かだ。これで意思がないだなんて考えられない。アシュナムさんの発言が信じられなくて、俺は慌てて背後の精霊に顔を向ける。「そうなのか、お前?」一瞬だけ申し訳なさそうに光球が弱く輝き、逃げるように姿を消してしまう。なんだか怯えた様子だったような……ケイロたちを怖がっているのか?疑問に思いながら顔を前に向け直すと、三人ともに険しい顔をして俺を見ていた。「な、なんだよ……俺、そんな怖い顔されるほど変なことしたか?」「……いや、物珍しいだけだ」ケイロは鋭い眼差しで左右に控える二人を見やってから、こっちに近づいてくる。「もうすぐ授業が始まる。さっさと教室に戻るぞ」「ああ……って、ちょっと待てぇ、は、離れろよぉ……っ」アシュナムさんたちに背を向けて歩き出そうとした途端、俺の隣に並んだケイロがしっかりと肩を抱いてきた。ち、力が抜ける……歩くと振動が……ぅぅ、授業に集中できなくなる……ってか、これ一番誰かに見られちゃいけないヤツだろ!?速く歩けと促すように、ケイロは俺の肩を押しながら颯爽と歩く。そして背後の二人と距離を取った後、一度立ち止まって振り向く。いつになくケイロの顔が怖い顔つきで、お付きの人であるハズの二人を牽制しているように見えた。「この件に関しては他言するな。なんの力もない、俺が気まぐれで選んで固執している
もっと精霊と交流を持ちたかったが、そろそろ昼休みも終わりかけ。もう帰っていいから、って言えば消えてくれるのかなあ……と思っていたその時だった。「あ……」ケイロたちが校舎裏へやって来たことに気づいて、俺は木の陰から三人をうかがう。まだ俺には気づいていないようで、アシュナムさんとソーアさんはケイロにへりくだった態度を取っている。ケイロもかしずかれるのが当たり前と言わんばかりに偉そうだ。このまま気づかれないなら、やり過ごしたほうがいいか? こんな所で俺ひとりで何やってんだって話になりそうだし。でもなあ……こっちの世界のことをアドバイスする立場にある身としては、ちょっと見過ごせない。俺は姿を現わし、ケイロたちに駆け寄った。「太智!? どうしてここにいるんだ?」驚くケイロに答える前に、俺は周囲を見回して人がいないことを確かめた上で近づき、コソッと告げた。「精霊が使えるようになったから、魔法の練習してたんだよ」「そうか。休みを強要されていても、自ら進んで鍛錬するとは良い心がけだな。さすがは俺の嫁だ」「学校で嫁呼ばわりするな……って、そんなことよりも! かなり重大な話があるんだけど」「なんだ?」「ケイロたちって、いつも校舎の中で集まったら三人一緒に行動しているのか?」俺の問いかけに、ケイロがきょとんとなる。そして心底「なぜそんなことを聞くのだ?」と言いたげに首を傾げた。「ああ、そうだが? 立場は違えど兄弟なら校内で一緒にいてもおかしくないだろ?」「……お前のキャラに合ってない」「どういうことだ?」「人と馴れ合わないクール男子は、学校で兄弟仲良く並んで歩かねぇ! むしろ身内とは顔を合わせないように避けるか、短く用件を伝えてさっさと離れる。基本、俺らぐらいの男子高生は兄弟と馴れ合わないことのほうが多い」「な、なん、だと…&helli
「うおっ、本当に出た。前から気になってたけど、これどうなってんだ?」俺は思わず指を差し出し、光球に近づけていく。モワッ、と。触ったという手応えはないし、そのまま指が精霊を貫通してしまった。指が入っているところはほんのり温かくて、風呂場の湯気に指を突っ込んでいるような感触だ。不思議だなあ、と思いつつ何度も指を上下させていたら――スス……。光球が自分から動いて、俺の指から離れた。「もしかして触られるの嫌だった?」呟いて小首を傾げる俺に、光球が一瞬光を強めた。まるで返事をしてくれたような行動で、俺は首を伸ばし、顔を近づけながらマジマジと観察する。「ひょっとしてお前、意志があるのか! へぇー……なあ、喋ることってできるのか?」この質問にはなんの反応も見せない。どうやらこれが否定らしい。まさかこんな光の球と意思疎通ができると思わず、俺は目を輝かせてしまう。ゲームや漫画好きなら憧れるファンタジー展開が今、目の前に……っ!こんなところをケイロたち以外の誰かに見られたら、間違いなく変人認定される。校内でこんなことするもんじゃないよな、とドキドキするけど、溢れる好奇心は止められなかった。「お前らもあっちの世界から来たのか? ……あ、光らねぇ。こっちにもいるんだ。へぇぇー……食べ物とか食べられるのか? せっかくだし、お近づきのしるしに何かあげたいんだけど……あ、ダメなのか」何もあげられないのは残念だなあと思っていたら、子犬がまとわりつくように光球が俺の周りをクルクルと回る。どうやら俺の気持ちは嬉しかったらしい。「食べられないなら、一緒に遊んだりするほうが嬉しいのか? 鬼ごっこしたりとか……うわっ、眩しいっ。そっか、そういうのは好きなんだ。なんか子供というか、人懐っこいワンコっぽいというか……あ、急に光が消えた。スン顔した
◇◇◇休み明けの授業中。期末テストが近いと分かっていても、授業の内容は頭に入って来なかった。ケイロの国に力を与えている百彩の輝石。その輝石を守りたい。国のためにならないからと盗んだマイラット。少し話を聞いただけでも、輝石を奪われたことが国の一大事だとは分かるし、王子のケイロが直接乗り込んでくるほどのことなのも理解できる。でも悠の話が本当なら、どうして国のためにならないんだ?輝石を守るって、マイラットってヤツは何から守りたいんだ?国家転覆の陰謀とか、国の威信とか、王家の裏事情とか……そんな漫画やラノベな世界とは一切無縁な一般高校生の俺。あれこれ考えて真実を見つけ出すなんてまずできない。ムリ。期末テストで赤点回避するだけで精一杯な頭だし。考えても無駄――って分かってるのに、それでも頭が勝手に働いてしまう。ケイロたちはマイラットの意図は知ってるのか?もし悠から聞いた話をしたら、何か前進するか?……でも悠からは、自分のことを言わないでくれって頼まれてるしなあ。悠が協力者だって分かったら、容赦しないだろうなケイロは。魔法で自白は通常運転だろうし、マイラットをおびき寄せるために、悠を利用するかもしれない。一緒に昼食を取る仲でも、たぶんケイロはやる。だって国の一大事だから。親友を追い詰める真似はしたくない。けれど、このまま放置はできない。一回、マイラットから話が聞けるといいんだけどな。あっちの事情が分かったら、もしかしたら何か状況が変わるかもしれない。知らないから困るんだよ。うん。誤解の元だ。俺は巻き込まれちゃった第三者だから、当事者じゃない分だけ怒らずに事情は聞けるし、もしマイラットが悪いヤツで何か仕掛けてきたら遠慮なく倒せるし……俺が密かに動くしかないよな。うーん、これって内助の功になっちまうのか?ケイロのことを考えて動こうとすると、全部夫婦絡みな感じがしてならない。な
◇◇◇夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!? お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危険を感じなくちゃいけないんだよ」筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。俺は頭を掻きながらケイロに尋ねる。「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」「ああそうだ。面倒なことに定期的に報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」ケイロたちがこっちに来た目的の、百彩の輝石。さり気なく尋ねてみると、ケイロは小さく頷いた。「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする」「魔法使いの最強装備じゃねーか。そりゃあ持っていかれたら困るよな」
『あー、ムリムリ。三日に一度は中に出されないとダメなんだぞ? 体も頭もおかしくなるって』『え……? 三日? 中に出されるって……?』『え? 悠は違うのか?』『僕は……一週間に一度、キスしてる。舌を絡め合う濃厚なやつ』思わずスマホの画面を見ながら俺は固まる。そして動揺任せに素早く文字を入力した。『はぁぁ? それだけでいいのかよ!』『それだけって……ベロチューだよ!? しっかり唾液飲まなくちゃいけないんだよ!?』『俺のに比べたらかなりマシだから、それ! 時間かかんねぇし、体に負担もかからねぇし、キスなら挨拶みたいなもんって割り切れるし!』『割り切れないよ! あんな濃厚なの、雰囲気出されながら丁寧に毎回されたら……』悠の困惑が伝わってきて、不意に保健室で指輪を見せてきた時のことを思い出す。巻き込まれたのに、相手と夫婦であることを受け入れていた――俺と同じだ。悠の本心が分かって、俺はため息をついた。だよなあ……ベロチューでも意識しちまうよなあ。そりゃあ中に出されちゃったら、意識するどころじゃなくなるよなあ……。思わず遠い目をして現実逃避しかかった俺を、ピロリン、と返信の通知音が引き止める。『太智は何をされたの?』『口では言えないスゴいこと……察して。頼む』『あ……え、最初から?』『最初から。もうお婿に行けない』『どうしてそんなことを……そこまでしなくてもいいのに』頭の片隅でチラついていた疑問を悠に書かれ、俺の中の戸惑いが一気に膨らむ。抱かなくても良かったのに、なんで嘘までついて俺を抱いた?今はちゃんと両想いで、心が伴っている。昨日あれだけ確かめ